糖質制限、一度はやったことありますよね。
ごはんを抜いて、最初の2週間で体重が落ちて、「これだ」と思って。
そのあと、なんとなく戻った。
あの「最初は減った」という記憶があるせいで、糖質制限の話は今でも耳に入ってきやすいと思います。
昔、セミナーで聞いた話
糖質制限を教えているトレーナーの方のセミナーを聞きに行ったことがあります。
いいところの話が続いて つらい部分やうまくいかない人の話が、最後まで出てこなかった。 SNSの投稿も同じ調子でした。
そのときはせっかくのセミナーでしたが聞き流しました。結局偏った食べ方を勧める話で両面から納得できる説明がなかったからです。
正直に書くと、これは昔の記憶で細かいところは正確ではありません。残っているのは印象です。ただ、最近のショートスリーパー論争を見ていて、その印象が戻ってきました。中身は別の話なのに、話の組み立て方に既視感があった。
その既視感の正体を数字で確かめていきます。
先に結論です
糖質制限で、体重は減ります。 ここを否定する記事ではありません。
問題は「どこまで削るか」と「削ったぶんを何に置き換えるか」で、そこを話さない人の話は、判断材料にしなくていい。これがこの記事の結論です。
「減る」は本当。ただし、低脂肪でも同じだけ減った
まず、減る側の数字から。
米国で609人を、低炭水化物の食事と低脂肪の食事にランダムに分けて12か月追った試験があります(Gardnerさんら、2018年。DIETFITS試験)。
12か月後の体重変化は、低炭水化物が-6.0kg、低脂肪が-5.3kgでした。
6kgは、2Lのペットボトル3本ぶん。はっきり減っています。
ただしこの試験の本題は、そこではありません。両者の差は0.7kgで、統計的に意味のある差ではありませんでした。しかも「遺伝子のタイプ」でも「インスリンの出方」でも、どちらの食事がどの人に向くかは説明できなかったと報告されています。
つまり、「糖質制限で減る」と「糖質制限だから減る」は別の話です。きちんと続けた食事制限なら、糖質を削っても脂質を削っても、1年後はだいたい同じところに着く。
これが、セミナーで出てこなかった片面です。あくまで一部の研究データではありますが、別のルートと比較をするだけでも受講者の選択の判断にはなると思います
削りすぎた側で起きていること
次に、長く続けた場合の数字です。
米国の4地域で45〜64歳の15,428人を、中央値で25年追った研究があります(Seidelmannさんら、2018年)。炭水化物からとるエネルギーの割合と、死亡率の関係を調べたものです。
結果はU字型でした。炭水化物が50〜55%のあたりで死亡リスクがいちばん低く、そこから減らしても増やしても上がる。
さらに世界の7つの研究を合わせた432,179人の解析では、炭水化物40%未満の人は中程度の人に比べて死亡リスクが1.20倍、70%超の人は1.23倍でした。

削りすぎても、とりすぎても、同じくらい上がる。 これが1つ目。
そして2つ目が、この研究でいちばん実用的なところです。削った炭水化物を何に置き換えたかで、向きが逆になりました。
- 動物性の脂質・たんぱく質(牛・豚・鶏・羊など)に置き換えた人 → 1.18倍
- 植物性の脂質・たんぱく質(野菜・ナッツ・全粒穀物など)に置き換えた人 → 0.82倍
同じ「糖質制限」でも、ごはんを肉に替えた人と、ごはんをナッツや豆に替えた人では、逆の方向に動いていたということです。
日本の研究者による別の解析でも、低炭水化物スコアが高い人は総死亡のリスクが1.31倍と報告されています(Notoさんら、2013年。4つのコホート研究272,216人のメタ解析)。著者自身が「観察研究にもとづく限られた解析」と限界を書いていますが方向は同じです。長期間追跡する研究はある程度の説得力があると感じます。短期的な結果は体重でみられますが、長期で見た時に健康面でどう影響を与えるかを知ってください。
ただし、逆の報告もあります
ここは正直に書きます。
日本人9,200人を29年追った研究(NIPPON DATA80)では、女性で、低炭水化物スコアがいちばん高いグループの死亡リスクが低かったと報告されています(中村さんら、2014年)。心血管疾患による死亡が0.60倍、総死亡が0.74倍。男性では統計的に意味のある差は出ていません。
さきほどの話と矛盾して見えますが、著者はこの結果を「moderate(ほどほど)に炭水化物を減らした食事」についてのものだと書いています。
もともと炭水化物が多めの日本人が、ほどほどに減らす。それと、極端に削る。この2つは別の話で、この記事で「削りすぎ」と言っているのは後者です。
国の基準は「50〜65%、ただし弾力的に」
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、炭水化物の目標量は1歳以上の全年齢で50〜65%エネルギーです。
さきほどのU字の底(50〜55%)が、この範囲の下のほうにすっぽり入っています。
そして表の脚注に、こうあります。
範囲に関しては、おおむねの値を示したものであり、弾力的に運用すること。
ガチガチの数字ではありません。ただ、40%を切るような削り方は、この範囲の外です。
片面の話を見分ける、3つの目印
糖質制限に限らず、食の話で「この人の話は判断材料にしない」と決めるときの目印を3つ挙げます。セミナーで感じた違和感をあとから言葉にしたものです。
1. デメリットを聞いても出てこない。 どんな食べ方にも合わない人がいます。そこを話せないのは「知らない」か「話したくない」かのどちらかです。
2. 「誰にでも当てはまる」という言い方をする。 DIETFITSの結果のとおり、誰にどの食事が向くかは、遺伝子を調べても分かりませんでした。分かっていないことを分かっていると言う人の話はそこで信頼度が下がります。
3. 成功例しか出てこない。 仲間内でうまくいった人の話は統計ではありません。うまくいかなかった人はその輪から抜けているだけです。当然仲間内なら成功率・継続率が跳ね上がりますよね。残った人だけをカウントしてるからです。
この3つは睡眠の話でも、野菜の話でも、同じ形で出てきます。「1日30分睡眠」の論争を整理した記事で書いた「個人の逸話と集団の統計を混ぜない」という話と根っこは同じです。
で、どうするか
今回の資料で線が引かれているのは2つだけです。
1. 炭水化物を40%未満まで削らない。 U字の左側が上がりはじめるのがここで、国の目標量(50〜65%)の外でもあります。3食ぜんぶ主食を抜く食べ方はこの線を越えに行く設計です。
2. 削ったぶんは肉だけで埋めない。 豆、ナッツ、野菜を混ぜてください。同じ削り方でも置き換え先が動物性か植物性かでリスクの向きが逆になった。これが今回の資料でいちばん大きな発見でした。
「何を何グラム」という数字はこの記事には書きません。資料にその数字が無いからです。自分の食事が40%を切っているかどうかは、1週間ぶんの主食を書き出してみると見当がつきます。カロリー計算が面倒なら写真をとるだけでもどれくらいの割合で炭水化物を食べているかをざっくりとは認識できます。
戻ってしまった経験がある人ほど今度は削りすぎない設計のほうが結果として長く続きます。
まとめ

糖尿病などで治療中の方、持病のある方、妊娠中・授乳中の方、お子さんについては、糖質の量を大きく変える前に必ず主治医や管理栄養士にご相談ください。この記事は一般的な情報の整理であって、個別の診断や指導ではありません。
出典
公的資料
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書 エネルギー産生栄養素バランス」 ※炭水化物の目標量は1歳以上の全年齢・男女とも50〜65%エネルギー。脚注2「範囲に関しては、おおむねの値を示したものであり、弾力的に運用すること」
一次資料(論文)
- Gardner CD, Trepanowski JF, Del Gobbo LC, et al. Effect of Low-Fat vs Low-Carbohydrate Diet on 12-Month Weight Loss in Overweight Adults and the Association With Genotype Pattern or Insulin Secretion: The DIETFITS Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018;319(7):667-679. doi:10.1001/jama.2018.0245 / PubMed (PMID: 29466592) ※米国(スタンフォード大学)で18〜50歳・BMI28〜40の609人を無作為化。12か月の体重変化は低脂肪-5.3kg・低炭水化物-6.0kg、群間差0.7kg(95%信頼区間 -0.2〜1.6)。遺伝子型・インスリン分泌との交互作用はいずれも有意でない。12か月時点の炭水化物比率は低脂肪群48%・低炭水化物群30%
- Seidelmann SB, Claggett B, Cheng S, et al. Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis. Lancet Public Health. 2018;3(9):e419-e428. doi:10.1016/S2468-2667(18)30135-X30135-X) / PubMed (PMID: 30122560) ※米国4地域のARICコホート15,428人(45〜64歳)・追跡中央値25年でU字型、50〜55%で最小リスク。7研究を合わせた432,179人のメタ解析で40%未満HR1.20(1.09-1.32)・70%超HR1.23(1.11-1.36)。動物性への置き換え1.18(1.08-1.29)、植物性への置き換え0.82(0.78-0.87)
- Noto H, Goto A, Tsujimoto T, Noda M. Low-carbohydrate diets and all-cause mortality: a systematic review and meta-analysis of observational studies. PLoS One. 2013;8(1):e55030. doi:10.1371/journal.pone.0055030 / PubMed (PMID: 23372809) ※低炭水化物スコアを使った4コホート272,216人で総死亡RR1.31(1.07-1.59)。心血管死亡・発症は有意差なし。著者は「限られた観察研究にもとづく」と明記
- Nakamura Y, Okuda N, Okamura T, et al. Low-carbohydrate diets and cardiovascular and total mortality in Japanese: a 29-year follow-up of NIPPON DATA80. Br J Nutr. 2014;112(6):916-924. doi:10.1017/S0007114514001627 / PubMed (PMID: 25201302) ※日本人9,200人(女性56%・平均51歳)を29年追跡。低炭水化物スコア最高十分位 vs 最低十分位で、女性の心血管死亡HR0.60(0.38-0.94)・総死亡HR0.74(0.57-0.95)。男性は有意差なし。結論は「moderate diets lower in carbohydrate」についての記述
注記: 本文中の「糖質制限」は、研究上は炭水化物からとるエネルギーの割合として測られています。糖質は炭水化物から食物繊維を除いたものですが、この記事ではおおまかに同じ意味で使っています。