健康診断の結果票が返ってきて腹囲のところに印が付いていた。
そのあと会社から「保健指導のご案内」みたいな紙が来てなんとなく机の上に置いたまま何日か経っている。こんな経験ありませんか。
たぶん、こう思っていますよね
置いたままにしている理由はなんとなくではないはずです。
「こんなもの受けても、どうせ意味ないでしょ」
「忙しくて、それどころじゃない」
「太ってるけど、今のところ元気だし。困ってない」
だいたいこのあたりだと思います。
この気持ちはよく分かります。というか、正直に言うと1つ目の「意味ない」については数字を見るかぎり半分当たっています。
今日はその話をします。受けろと説教する記事ではありません。 実際の数字を知ってもらった上でそれでも受けるなら「こう使うと元が取れますよ」という話です。
まず、あなたの勘が当たっている部分
京都大学の研究グループが就労世代の男性74,693人を分析した報告があります(JAMA Internal Medicine、2020年)。
指導の対象になったことで1年後にわずかな変化はあったものの、3〜4年後には差が見られなくなり、血圧・HbA1c・LDLコレステロールについては変化が見られなかったとされています。
体重についても別の大規模な解析で1年後の変化は男性-0.21kg、女性-0.28kgという値が出ています(後述)。
0.21kgと言われてもピンと来ないと思うので置き換えます。500mlのペットボトル半分にも届きません。それが1年かけての変化です。
ここまで読むと「ほら、やっぱり意味ないじゃん」となりますよね。
ぼくも最初にこの数字を見たときはそう思いました。立場としては本当は「制度はよくできています」と言った方が楽です。でも数字がそうなっていない。だからこそ、実際の数字を皆さんにも知っておいてもらいたいと思っています。
ところが数字をもう一段割ると景色が変わる
さきほどの-0.21kgの出どころは関西大学の研究グループが2014年度の特定健診受診者581万9,041人を解析した報告です(European Journal of Preventive Cardiology、2023年)。
この論文を読むと数字が2つに割れています。
| 変化 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 指導の対象になったことによる体重の変化 | -0.21kg | -0.28kg |
| 実際に指導を受けた人の体重の変化 | -3.8kg | -4.7kg |
| 実際に指導を受けた人の腹囲の変化 | -5.0cm | -5.7cm |
3.8kgを置き換えると2Lのペットボトルほぼ2本分です。指導対象になっただけの-0.21kgとはもう別の話をしているように見えます。
なぜこんなに開くのか。
答えは単純で対象になった人のうち、実際に指導を受けたのは16%しかいなかったからです。10人に案内が届いて受けたのは1人か2人。残りの8〜9人はあなたと同じように紙を置いたままです。
全体の平均を出すと受けていない8〜9人に薄められて0.21kgになる。それだけのことなんです。
つまり「指導が効かない」のではなく、「そもそも届いていない」というのがこの数字の読み方だとぼくは思っています。

ただし、ここも正直に書きます
「受ければ必ず3.8kg減ります」という話ではありません。
指導を受ける人はそもそも受ける気がある人です。やる気がある人が集まっているグループなのでその分だけ数字が良く出ている可能性があります。研究の限界としてここは押さえておいてください。
それとぼくは特定保健指導の現場を見てきた側の人間なので、中身にはかなり言いたいことがあります。
生活の事情も仕事の時間も何が続けられて何が続けられないかも聞かないまま、とにかく数字だけ決めて行動目標を書かせる。そういうやり方を見たことが何度もあります。あれで結果が出るとは正直まったく思いません。
あなたが「意味ない」と感じているのはたぶん間違っていません。 実際、そういう受け方をしたら意味がないんです。
じゃあ、どう使えば元が取れるのか
ここが本題です。
9割は適当でいいので、1つだけ真剣に決めてください。
会社のルールで強制参加だと適当に数値だけ入れたくなる気持ちもよく分かります。ぶっちゃけ時間の無駄ですもんね。だから相手が信用ならんと思えば9割は流していいです。
そのうえでどんなに小さくてもいいので、1つだけ「これなら続けられそう」と自分で思えるものを設定してください。 そこだけ本気で選ぶ。
そしてこれも書いておきます。
相手(栄養士)が自分の生活を聞かずに数字だけ決めてくるようなら、その目標は持ち帰らなくていいです。
自分でやらないと分かっている目標を紙に書いて帰っても、続きません。何のために書いたのかも分からなくなります。それなら自分で選んだ1つの方がはるかにマシです。
立場によって使い方は変わります
強制参加の会社の人へ。 どうせ時間を取られるなら、1つだけ真剣に決める枠として使ってしまうのが一番おトクです。行かない選択肢がないなら、せめて持ち帰るものを自分で選んでください。
自由参加で迷っている人へ。 一度だけ試す価値はあると思います。合わなければ次から行かなければいいだけです。
それでもどうしても嫌な人へ。 無理に行かなくてもいいと思います。ただ、この記事の数字だけは持って帰ってください。「受けた人は落ちている」という事実は指導を受けなくても使えます。 自分で1つ決めればいいだけの話なので。
今日やることは、1つだけ
受ける前に(あるいは受けなくても)、自分で1つだけ決めておいてください。
紙を渡されてから考えるとたいてい相手のペースで決まります。先に自分で決めておけば、それを持って行くだけで済みます。
「これなら続けられそう」の基準は面倒だと思わないことです。参考までにこういう粒度で十分です。
- 外で買う飲み物を甘くないものに替える
- 朝のコーヒーに入れている砂糖だけやめる
- 週に2回だけ、夜のごはんを半分にする
どれも大したことはありません。でもやらない目標を10個書くよりは確実に前に進みます。
やらなくていいこと
やる気のないうちに目標をたくさん立てること。
保健指導の紙にたくさん書かされることがありますが、実際にやらないなら、書いた分だけ後で自分を責める材料になるだけです。
1つだけ選んで残りは線を引いて消してしまっていいと思います。責任を持ってやれるものが1つあれば、それで十分に進みます。
まとめ

- 平均が小さいのは事実です。 対象になっただけなら男性-0.21kg
- 理由は「効かない」ではなく「届いていない」。 実際に受けたのは16%でした
- 受けた人は男性-3.8kg。 ただし受ける気のある人が集まっている点は差し引いてください
- 9割は流していい。1つだけ本気で決める。 それが持ち帰るものです
- やる気のないうちに目標をたくさん立てない。 後で自分を責める材料になるだけです
体重や健診の数値については持病がある方・通院中の方・妊娠中の方は自己判断で食事を変えず、かかりつけの医師や管理栄養士に相談してください。この記事は一般的な情報の整理であって個別の指導ではありません。
出典
一次資料(論文)
- Fukuma S, Iizuka T, Ikenoue T, Tsugawa Y. Association of the National Health Guidance Intervention for Obesity and Cardiovascular Risks With Health Outcomes Among Japanese Men. JAMA Intern Med. 2020;180(12):1630-1637. doi:10.1001/jamainternmed.2020.4334 / PubMed (PMID: 33031512) ※40〜74歳の男性74,693人。回帰不連続デザインによる分析
- Nakao YM, Gale CP, Miyazaki K, Kobayashi H, Matsuda A, Nadarajah R, Motonishi T. Impact of a national screening programme on obesity and cardiovascular risk factors. Eur J Prev Cardiol. 2023;30(4):331-339. doi:10.1093/eurjpc/zwac283 ※2014年度の特定健診受診者5,819,041人(男性3,490,112人・女性2,328,929人)。ファジー回帰不連続デザイン ※本文中の「対象になったことによる変化」は同論文の意図治療(ITT)推定値、「実際に指導を受けた人の変化」は同論文 Table 2 の treatment-on-the-treated 推定値
公的資料・解説記事
- メタボ健診・特定保健指導制度の課題を提言(京都大学プレスリリース)
本文の数値はすべて、上記2本の論文の本文・抄録で直接確認したものです。
未読の資料を典拠に挙げることはしていません。
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