健康診断の結果票が返ってきて、腹囲のところに印が付いていた。
そのあと会社から「保健指導のご案内」みたいな紙が来て、なんとなく机の上に置いたまま何日か経っている。こんな経験ありませんか。
たぶん、こう思っていますよね
置いたままにしている理由は、なんとなくではないはずです。
「こんなもの受けても、どうせ意味ないでしょ」
「忙しくて、それどころじゃない」
「太ってるけど、今のところ元気だし。困ってない」
だいたいこのあたりだと思います。
ぼくは管理栄養士ですが、この気持ちはよく分かります。というか、正直に言うと1つ目の「意味ない」については、数字を見るかぎり半分当たっています。
今日はその話をします。受けろと説教する記事ではありません。 実際の数字を知ってもらった上で、それでも受けるなら「こう使うと元が取れますよ」という話です。
まず、あなたの勘が当たっている部分
厚生労働省が2008年から2018年までの10年分のデータベースを使って検証した報告があります。2回以上健診を受けた39〜75歳、約4,400万人分です。
指導の対象になった人の3年後の体重は、男性で0.87kg、女性で1.04kgの減少でした。
0.87kgと言われてもピンと来ないと思うので、置き換えます。500mlのペットボトル2本弱です。それが3年かけての変化です。2本分のペットボトルがなくなったんです!(余計わからんかもですが…)
しかもこの効果は、5年後にはさらに小さくなっていたと報告されています。
京都大学の研究グループが就労世代の男性74,693人を分析した報告(JAMA Internal Medicine、2020年)では、もっとはっきりしています。指導の対象になったことで1年後にわずかな変化はあったものの、3〜4年後には差が見られなくなり、血圧・HbA1c・LDLコレステロールについては変化が見られなかったとされています。
ここまで読むと「ほら、やっぱり意味ないじゃん」となりますよね。
ぼくも最初にこの数字を見たときはそう思いました。管理栄養士の端くれとしては、本当は「制度はよくできています」と言った方が立場としては楽です。でも数字がそうなっていない。だからこそ、実際の数字を皆さんにも知っておいてもらいたいと思っています。
ところが、数字をもう一段割ると景色が変わる
関西大学の研究グループが、2014年に特定健診を受けた581万9,041人を解析した報告(European Journal of Preventive Cardiology、2022年)があります。
ここで数字が2つに割れます。
| 変化 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 指導の対象になったことによる体重の変化 | -0.21kg | -0.28kg |
| 実際に指導を受けた人の体重の変化 | -3.8kg | -4.7kg |
| 実際に指導を受けた人の腹囲の変化 | -5.0cm | -5.7cm |

3.8kgを置き換えると、2Lのペットボトルほぼ2本分です。指導対象になっただけの-0.21kgとは、もう別の話をしているように見えます。
なぜこんなに開くのか。
答えは単純で、対象になった人のうち、実際に指導を受けたのは16%しかいなかったからです。10人に案内が届いて、受けたのは1人か2人。残りの8〜9人は、あなたと同じように紙を置いたままです。

全体の平均を出すと、受けていない8〜9人に薄められて0.21kgになる。それだけのことなんです。
つまり「指導が効かない」のではなく、「そもそも届いていない」というのが、この数字の読み方だとぼくは思っています。
ただし、ここも正直に書きます
「受ければ必ず3.8kg減ります」という話ではありません。
指導を受ける人は、そもそも受ける気がある人です。やる気がある人が集まっているグループなので、その分だけ数字が良く出ている可能性があります。研究の限界としてここは押さえておいてください。
それと、ぼくは特定保健指導の現場を見てきた側の人間なので、中身にはかなり言いたいことがあります。
生活の事情も、仕事の時間も、何が続けられて何が続けられないかも聞かないまま、とにかく数字だけ決めて行動目標を書かせる。そういうやり方を見たことが何度もあります。あれで結果が出るとは、正直まったく思いません。
あなたが「意味ない」と感じているのは、たぶん間違っていません。 実際、そういう受け方をしたら意味がないんです。
じゃあ、どう使えば元が取れるのか
ここが本題です。
9割は適当でいいので、1つだけ真剣に決めてください。
会社のルールで強制参加だと、適当に数値だけ入れたくなる気持ちもよく分かります。ぶっちゃけ時間の無駄ですもんね。だから、相手が信用ならんと思えば9割は流していいです。
そのうえで、どんなに小さくてもいいので、1つだけ「これなら続けられそう」と自分で思えるものを設定してください。 そこだけ本気で選ぶ。
そして、これも書いておきます。
相手(栄養士)が自分の生活を聞かずに数字だけ決めてくるようなら、その目標は持ち帰らなくていいです。
自分でやらないと分かっている目標を紙に書いて帰っても、続きません。何のために書いたのかも分からなくなります。それなら自分で選んだ1つの方が、はるかにマシです。
立場によって、使い方は変わります
強制参加の会社の人へ。 どうせ時間を取られるなら、1つだけ真剣に決める枠として使ってしまうのが一番おトクです。行かない選択肢がないなら、せめて持ち帰るものを自分で選んでください。
自由参加で迷っている人へ。 一度だけ試す価値はあると思います。合わなければ次から行かなければいいだけです。
それでもどうしても嫌な人へ。 無理に行かなくてもいいと思います。ただ、この記事の数字だけは持って帰ってください。「受けた人は落ちている」という事実は、指導を受けなくても使えます。 自分で1つ決めればいいだけの話なので。
今日やることは、1つだけ
受ける前に(あるいは受けなくても)、自分で1つだけ決めておいてください。
紙を渡されてから考えると、たいてい相手のペースで決まります。先に自分で決めておけば、それを持って行くだけで済みます。
「これなら続けられそう」の基準は、面倒だと思わないことです。参考までに、こういう粒度で十分です。
- 外で買う飲み物を、甘くないものに替える
- 朝のコーヒーに入れている砂糖だけやめる
- 週に2回だけ、夜のごはんを半分にする
どれも大したことはありません。でも、やらない目標を10個書くよりは、確実に前に進みます。
やらなくていいこと
やる気のないうちに、目標をたくさん立てること。
保健指導の紙にたくさん書かされることがありますが、実際にやらないなら、書いた分だけ後で自分を責める材料になるだけです。
1つだけ選んで、残りは線を引いて消してしまっていいと思います。責任を持ってやれるものが1つあれば、それで十分に進みます。
体重や健診の数値については、持病がある方・通院中の方・妊娠中の方は自己判断で食事を変えず、かかりつけの医師や管理栄養士に相談してください。この記事は一般的な情報の整理であって、個別の指導ではありません。
出典
一次資料(論文)
- Fukuma S, Iizuka T, Ikenoue T, Tsugawa Y. Association of the National Health Guidance Intervention for Obesity and Cardiovascular Risks With Health Outcomes Among Japanese Men. *JAMA Intern Med.* 2020;180(12):1630-1637. doi:10.1001/jamainternmed.2020.4334 / PubMed (PMID: 33031512)
- 40〜74歳の男性74,693人。回帰不連続デザインによる分析
- Nakao YM, Gale CP, Miyazaki K, Kobayashi H, Matsuda A, Nadarajah R, Motonishi T. Impact of a national screening programme on obesity and cardiovascular risk factors. *Eur J Prev Cardiol.* 2023;30(4):331-339. doi:10.1093/eurjpc/zwac283
- 2014年度の特定健診受診者5,819,041人(男性3,490,112人・女性2,328,929人)。ファジー回帰不連続デザイン
- 本文中の「対象になったことによる変化」は同論文の意図治療(ITT)推定値、「実際に指導を受けた人の変化」は同論文 Table 2 の treatment-on-the-treated 推定値
公的資料・解説記事
- 厚生労働省「特定健診・特定保健指導の効果検証」(NDBを用いた2008〜2018年の分析、2021年)
- 特定健診・保健指導の効果を10年間のNDBで検証 / 582万人のデータを解析(保健指導リソースガイド)
- メタボ健診・特定保健指導制度の課題を提言(京都大学プレスリリース)
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