寝る時間、正直「もったいない」と思ったことありますよね?
仕事に家のこと、やっと来た自分の時間。
削れるとしたら睡眠しかない、という夜は誰にでもあります。
そこへ「1日30分睡眠を17年続けている」という人が現れたら、気になるのが人情です。
いまSNSで話題のショートスリーパー論争。
ここでは睡眠そのものではなく、栄養の側面から見ていきます。実はこの論争、食生活とかなり地続きの話につながっています。
先に結論を1つだけ。
「睡眠を削ると、食欲の設定が変わる」という報告が積み上がっています。
ダイエット中の人、食生活を立て直したい人ほど、これは他人事ではありません。
何が起きているのか?(2026年8月の経緯)
まず事実関係だけ短く整理します。
2026年8月6日、美容外科医・高須幹弥さんのYouTubeチャンネルで、「1日約30分睡眠」を17年続けていると公言する堀大輔さん(一般社団法人日本ショートスリーパー育成協会 代表理事)との対談動画が公開されました。
高須さんは冒頭からこう切り出しています。
僕はいまだに、堀さんが1日30分睡眠を何年も続けてらっしゃるっていうのを、100%信じてないんですよね
議論の中心になったのは、堀さんが提供している「睡眠改善プログラム」でした。
堀さんは「他人の睡眠時間を短くすることを推奨したことはない」と繰り返し反論しています。目的は睡眠時間のコントロールや、睡眠へのプレッシャーからの解放であって、時間の短縮そのものではない、という説明です。
一方で堀さんは、結果的に約7割の受講者の睡眠時間が短くなっており、統計上は平均で2時間14分ほど短縮されていることも明かしました。
これまでの最年少受講者は9歳。未成年の受講者のなかには、結果的に睡眠時間が5時間ほどになった人もいるといいます。
高須さんは、特に成長期は十分な睡眠時間の確保が重要だとして、その未成年の受講者にはもっと寝るように指導すべきだ、と主張しました。
議論は平行線をたどり、堀さんは「マジでなんなんこれ?」と語気を強める場面もありました。
※この部分が炎上の火種として切り取られているというのはあると思います。
ここで最初にお断りしておきます。
この記事は、堀さん個人の体や心の状態を判定しません。というより、できません。
会ったことも診たこともない人について語れるのは、「一般論として、研究が何を言っているか」までです。
なお堀さんは対談のなかで、「高須先生の動画を見た人が、僕のライブとかで誹謗中傷をめちゃくちゃするんすよ」と訴えています。誹謗中傷は、どんな立場の人に対してもアウトです。ここは前提として置いておきます。
生まれつきのショートスリーパーはいるのか?
いる、という報告があります。
2009年にScience誌に載った研究で、睡眠時間が短い人からDEC2という遺伝子の変異(hDEC2-P385R)が見つかりました。 同じ変異を入れたマウスも、起きている時間が長く、眠る時間が短くなっています。
つまり「短い睡眠で平気な体質の人」は実在するようです。
ただしポイントは2つ。
①報告されているのは「生まれつき」の話であること。
②訓練すれば誰でもなれることを示した質の高い研究は、少なくとも今回調べた範囲では見つからなかったこと。
「珍しい体質の人は実在する」と「自分もなれる」には、かなり距離があります。
睡眠を削ると、食欲はどうなる?
ここからが本題です。
実験室で起きたこと
健康な若い男性12人に、2日間の「睡眠を削る条件」と2日間の「たっぷり眠る条件」を、同じ人が両方経験する形で比べた試験があります(Spiegelさんら、2004年)。食事量も活動量も揃えたうえでの比較です。
睡眠を削った条件では、こう報告されています。
- 食欲を抑えるホルモン(レプチン)が 18%減った
- 食欲を強めるホルモン(グレリン)が 28%増えた
- 空腹感が 24%増えた
- 食べたい気持ち(食欲)が 23%増えた

しかも増えた食欲は、なんにでも向かうわけではありませんでした。
カロリーが高くて炭水化物の多い食べ物への欲求が、33〜45%増えたと報告されています。
徹夜明けに、サラダではなくラーメンやポテチが食べたくなるあの感じ。こう言われると納得する人も多いんじゃないでしょうか?
あれは意志が弱いのではなく、ホルモンの動きが絡んでいるのかもしれません。
ただし著者自身が限界も書いています。12人の若い男性だけの試験で、消費エネルギーは測っていません。
ふだんの生活でも
実験室の外でも、方向は同じでした。
米国のウィスコンシン睡眠コホートで1,024人を調べた研究では、習慣的な睡眠が短い人ほどグレリンが高く、レプチンが低いと報告されています(Taheriさんら、2004年)。
ただしBMIとの関係は、まっすぐな右肩上がりではありませんでした。睡眠時間とBMIはU字型で、短すぎても長すぎても高くなります。そのうち「8時間未満の人(調査対象の74.4%)では、睡眠が短いほどBMIが高い」という部分が、今回の話に関係するところです。
さらに、睡眠を削る介入試験11件(計172人)をまとめた解析では、睡眠を削った条件で1日あたり385kcal多く食べたのに、消費エネルギーのほうは変わらなかったと報告されています(Al Khatibさんら、2017年)。
385kcalは、ごはん茶碗にすると約1.6杯ぶん。
睡眠を削って手に入るのは、自由な時間と、ごはん1杯半ほどの食欲(という報告)、ということになります。
ちなみにこの解析では、増えた分の中身は脂質が増えてたんぱく質が減り、炭水化物は変わらなかったとされています。先ほどのSpiegelさんの試験(高炭水化物への欲求が増えた)とは、少し噛み合いません。「甘いものが欲しくなる」と単純化できるほど、話は揃っていないのが正直なところです。
揃っているのは「摂取エネルギーが増える方向」までです。
「睡眠不足だとキレやすい」は本当か?
今回の炎上でみんなが一番言いたかったのは、たぶんここですよね?
ここは、原典を読めた資料だけで書きます。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、冒頭でこう説明しています。
睡眠不足は、日中の眠気や疲労に加え、頭痛等の心身愁訴の増加、情動不安定、注意力や判断力の低下に関連する作業効率の低下、学業成績の低下等、多岐にわたる影響を及ぼし、事故等の重大な結果を招く場合もある。
「情動不安定」。国の資料が書いているのは、ここまでです。
地味に思えるかもしれません。ただ、これは実際に読んで確かめた一文です。このサイトでは、自分で読めなかった資料は使わないことにしています。
そして繰り返しますが、これは一般論です。
特定の誰かが怒った理由は、本人にも周りにも、たぶん正確には分かりません。
短い睡眠を長く続けたら?
大きなデータも見ておきます。
153の研究・のべ5,172,710人分をまとめた解析では、短時間睡眠に分類された人は、そうでない人と比べて次のリスクが高いと報告されています(Itaniさんら、2017年。相対リスク=何倍か、の目安です)。
- 死亡: 1.12倍(95%信頼区間 1.08〜1.16)
- 糖尿病: 1.37倍(1.22〜1.53)
- 肥満: 1.38倍(1.25〜1.53)
- 高血圧: 1.17倍 / 心血管疾患: 1.16倍

なお「何時間から短時間か」は研究ごとに違います。ただしこの解析では、死亡リスクについてだけは、睡眠時間が6時間を下回るあたりから直線的に上がるという結果も出ています。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」も、成人の推奨事項をこう書いています。
適正な睡眠時間には個人差があるが、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する。
そして子どもについては、こうです。
小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間を参考に睡眠時間を確保する。
冒頭の対談で、最年少の受講者が9歳だったという話が出ていました。
成長期の子どもには、大人より長い睡眠が推奨されている。ここは数字だけ置いておきます。
ホリエモンの「野菜炎上」と同じ構造
この論争、既視感がありませんでしたか?
2020年、堀江貴文さんが生配信中に「ちゃんと野菜取ってるえらい!」というコメントに激怒した一件です。
2つの騒動に共通するのは、「あの人個人がどうか」と「集団の統計がどうか」がごちゃまぜになる構造です。
堀江さんが野菜を食べる理由が「うまいから」でも、野菜摂取と健康の関連を示す統計は変わりません。
逆に、短時間睡眠で元気に見える人が1人いても、517万人分の統計は消えません。
そして専門家が歯切れ悪く見えるのは、たぶんここに理由があります。
「あの人は大丈夫なの?」には、誰も答えられないんです。診てないから。
でも「あなたはどうなりやすい?」には、統計が答えをくれます。
専門家の煮え切らない言い方は、不誠実の証拠ではなく、診てない人を診断しないという線引きだったりします。
で、どうするか?
食欲の話に戻します。
ここまで数字をたくさん出しましたが、そのまま行動に使えるものは1つしかありません。
6時間です。
死亡リスクが直線的に上がりはじめるのが6時間を下回るあたり(Itaniさんら)。厚労省のガイドも「6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する」。今回の資料で線が引かれているのは、ここだけです。
だから、やることも1つです。
この1週間、自分が何時間眠れているか数えてください。 食事を変えるのは、そのあとです。
数えたら、こう見てください。
- 6時間を切っている日が多い → 食事より先に、そっちを見る番です
- 6時間眠れている日が多い → この記事の心配は、いまは要りません
なぜ食事より先かというと、睡眠を削った条件では1日385kcal多く食べたのに、消費エネルギーのほうは変わらなかったと報告されているからです(Al Khatibさんら)。
食事管理を、坂道を上りながらやるか、平地でやるか。その差になり得ます。
ただし、正直に書いておきます。「眠れば食欲が戻る」とは書けません。 今回読んだ研究が確かめているのは「削ると増える方向」までで、増やしたらどうなるかは調べていないからです。
書けるのは、自分が6時間を切っていることに気づかないまま食事だけ頑張るのは、傾いている床の上で家具を並べているようなもの、というところまでです。
そして、仕事や家庭の事情で6時間眠れない日はあります。そういう日は自分を責めなくていいです。
「今日は食欲が増えやすい日だ」と知っているだけで、コンビニで手に取るものは変わります。 それで十分です。
まとめ

- 睡眠を削ると、摂取エネルギーは増える方向。1日385kcalという報告があります
- 分かれ目は6時間。 死亡リスクが直線的に上がるのも、厚労省の目安も、この線です
- 生まれつき短い睡眠で平気な体質は実在します。 ただし訓練でなれる証拠は見つかりませんでした
- まず1週間、自分の睡眠時間を数える。 食事を変えるのはそのあとです
- 眠れない日は責めない。 「食欲が増えやすい日」と知っておくだけで十分です
眠る時間はあるのに眠れない、寝ても休めた感じがしない場合は、睡眠障害など別の話になるので医療機関にご相談ください。持病のある方・妊娠中の方・お子さんについては、食事や睡眠を大きく変える前にかかりつけの医師や管理栄養士にご相談ください。
この記事は一般的な情報の整理であって、個別の診断や指導ではありません。
出典
今回の対談について
- ユーチュラ「ショートスリーパー堀大輔が高須幹弥医師との対談で激高「マジでなんなんこれ?」」2026年8月7日 ※動画の公開日(8月6日)・高須氏の「100%信じてない」発言・堀氏の肩書と17年という公言・「他人の睡眠時間を短くすることを推奨したことはない」・受講者の約7割で平均2時間14分短縮・最年少受講者9歳・誹謗中傷を訴えた発言は、すべて同記事より
- ニコニコニュース「ホリエモン、生配信の視聴者に…「野菜食べて偉い」コメントにブチ切れ」2020年6月1日 ※堀江貴文氏の生配信での経緯
公的資料
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」令和6年2月(健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会) ※推奨事項として、成人「適正な睡眠時間には個人差があるが、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する」、こども「小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間を参考に睡眠時間を確保する」。また「1.はじめに」より「睡眠不足は、日中の眠気や疲労に加え、頭痛等の心身愁訴の増加、情動不安定、注意力や判断力の低下に関連する作業効率の低下、学業成績の低下等、多岐にわたる影響を及ぼし、事故等の重大な結果を招く場合もある」
- 文部科学省「食品成分データベース」(日本食品標準成分表2020年版・八訂) ※水稲めし・精白米 100gあたり156kcal。茶碗1杯150gで約234kcalとして換算
一次資料(論文)
- Spiegel K, Tasali E, Penev P, Van Cauter E. Brief communication: Sleep curtailment in healthy young men is associated with decreased leptin levels, elevated ghrelin levels, and increased hunger and appetite. Ann Intern Med. 2004;141(11):846-850. doi:10.7326/0003-4819-141-11-200412070-00008 / PubMed (PMID: 15583226) ※健康な男性12人(平均22歳)の無作為化2期2条件クロスオーバー試験。2日間の睡眠制限と2日間の睡眠延長を比較。レプチン-18%・グレリン+28%・空腹感+24%・食欲+23%、カロリーが高く高炭水化物の食品への食欲+33〜45%。著者自身が「12人の若年男性のみ・消費エネルギー未測定」を限界として明記
- Taheri S, Lin L, Austin D, Young T, Mignot E. Short sleep duration is associated with reduced leptin, elevated ghrelin, and increased body mass index. PLoS Med. 2004;1(3):e62. doi:10.1371/journal.pmed.0010062 / PubMed (PMID: 15602591) ※ウィスコンシン睡眠コホート1,024人。睡眠時間とBMIはU字型の関連。習慣的睡眠5時間は8時間に比べレプチンが15.5%低く、グレリンが14.9%高いと予測された
- Al Khatib HK, Harding SV, Darzi J, Pot GK. The effects of partial sleep deprivation on energy balance: a systematic review and meta-analysis. Eur J Clin Nutr. 2017;71(5):614-624. doi:10.1038/ejcn.2016.201 / PubMed (PMID: 27804960) ※系統的レビューは17研究496人、メタ解析は11研究172人。摂取エネルギー+385kcal(95%信頼区間 252〜517)、総消費エネルギー・安静時代謝率に有意差なし。内訳は脂質増・たんぱく質減・炭水化物は変化なし
- Itani O, Jike M, Watanabe N, Kaneita Y. Short sleep duration and health outcomes: a systematic review, meta-analysis, and meta-regression. Sleep Med. 2017;32:246-256. doi:10.1016/j.sleep.2016.08.006 / PubMed (PMID: 27743803) ※153研究・のべ5,172,710人。死亡RR1.12(1.08-1.16)・糖尿病1.37(1.22-1.53)・肥満1.38(1.25-1.53)・高血圧1.17・心血管疾患1.16・冠動脈疾患1.26。死亡についてのみ6時間未満で直線的な用量反応を確認
- He Y, Jones CR, Fujiki N, et al. The transcriptional repressor DEC2 regulates sleep length in mammals. Science. 2009;325(5942):866-870. doi:10.1126/science.1174443 / PubMed (PMID: 19679812) ※短時間睡眠の表現型に関連するhDEC2-P385R変異を同定。同変異を持つトランスジェニックマウスは覚醒時間が長く睡眠時間が短かった
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